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研究室からMessage

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Prof

 長く更新を怠っており、申し訳ありません。
コロナ禍がようやく落ち着きを見せる中、研究室では新たに5名の3年生を迎えました。早速に研究テーマも決まって、先輩たちについて実験をスタートさせています。早く実験にも慣れて、有意義な研究生活を送ってもらえればと願っています。
 10月になり、今年もノーベル賞が発表されました。我々が注目するのは医学・生理学賞ですが、今年はTRPの権威であるDavid Jay Julius先生が受賞されました。Julius先生は1999年にcapsaicinの受容体としてVR1(TRPV1) のクローニングに成功したという論文をNatureに発表され、痛み研究に新しい概念をもたらされました。私は学生時に、仲田義啓先生(現・広島大学名誉教授)、井上敦子先生(現・福山大学薬学部教授、学部長)にご指導いただきながら、ラットの一次知覚神経培養細胞を用いてサブスタンスPの遊離機構に関する研究を行っていましたが、この神経細胞はcapsaicinにとてもよく反応しましたので、研究を進める上で大変助かりました。我々の研究室からもcapsaicinを用いた研究成果をいくつも報告させていただいていることもあって、今回の受賞は同じ領域の研究者として非常にうれしく思っています。ただcapsaicinに関して難点だったのがその調製です。capsaicinの溶液を調製するにあたり、薬品瓶から数ミリグラムという微量の粉を計り取るのですが、その際にわずかに舞い上がった粉が手に付き、その手で顔を触って涙が止まらなくなったという失敗を今回の受賞を聞いて思い出しました(苦笑、本当は手袋・ゴーグルをして調製しないといけません!)。また物理学賞では真鍋淑郎先生が受賞され、なんと約50年前に手掛けられたご研究が受賞の対象となったとのことで、先生の先見の明とともに、往年の日本の科学研究のレベルの高さを実感しています。
 一方で現在の科学研究を取り巻く環境は厳しいと言わざるを得ない状況です。特にノーベル賞ウィークの頃は科学研究に関する様々な問題がメディアで取り上げられますが、それも一時のことで、多くの方(特にマスコミ)にはあまり興味のない話題なのかもしれません。科学研究に携わる一人として色々と思うことがありますが、もっと声をあげていかないといけません。目先の成果だけを追うのではなく、20、30年後の先を見据えて、地道にやるような研究にも光を当ててくれるといいのですが、現状では無理ですかねぇ。でないと日本の科学研究分野は近い将来、荒野か砂漠のようになるんじゃないかと心配をしています。
 研究室は早くも6年目を迎えています。日々少しでも前に進めるようにもがく毎日です。引き続き、叱咤激励をいただければありがたく存じます。何かお気づきの点やご要望がありましたら、私(mnori@hiroshima-u.ac.jp)、あるいは中島(hisaokak@hiroshima-u.ac.jp)、中村(nakayoki@hiroshima-u.ac.jp)までお気軽にご連絡ください。
(2021 年 10 月)

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